「秒針に銃口をむける」
2010年01月20日
目隠しされている男がいる。
手も足も縛られて。
口だけが自由。
「なにをする気だ。俺が寝ている隙にこんなこと!金ならないぞ!」
「そうですね。あんたにはお金もなければ、仕事もないし、彼女もいない。」
「彼女ならいたさ。」
「過去形じゃないですか。あんたは、過去、私に、酷い仕打ちをした。恨みは未だに晴れないので、死んでもらいます。」
バンバンと、ピストルを撃った。
青ざめる目隠しをした男。
脳裏では、その声の主の正体を探っている。
だれだだれだ。そもそも、ぼくは、彼に恨みを買う様な仕打ちをしたのかなあ。
いままで、普通に一般市民として。
再び、バンバンと、ピストルの音。
も、もう、喋れない。口答えも怖い。
耳元で囁く男。
「死んでもらいます。」
ピストルを、男の心臓にあてる。
心臓の音はドクドクドクドク。早くなっていく。
ぶるぶる全身が震えた。
寒い。寒い。
目隠ししている男は考えた。
こいつはだれだ。
そして俺はなにをした。
頭の中は、ただ動揺していて。まともに考える力さえなかった。
ドクドクドクドク。
バンバンバン。
ピストル持った男は、サディストなのか。
何度も、心臓から別のほうに銃口を向けて弾を撃って威嚇した。
ハアハア。
額からダラッっと汗が出て来た。
息も上がってくる。
とうとう男は、生きることを諦めた。
「撃てよ。もう、腹はくくった。」
「生きることを諦めるんですか。そうですか。」
「ああ。どうせ、いままでだってロクなことなかったし。」
「どうしてこんな悲しいことを言うんですか。」
「・・いや、本当のことだし。」
「アンタにはがっかりだ!!」
男は、ピストルを投げて、錯乱して、目隠しをした男を殴った。
その衝撃で、目隠しがとれた。
「お、お前は。」
ピストルを持っている男は、中学の時の同級生。
目隠ししていた男は、不良だったし、周りもみんな不良だった。
ピストル持った男は、優等生でも劣等生でもなく。
なんのとりえもない空気のようなヤツで。
みんな、彼をチューブと呼んだ。
苛めてもパシっても面白くないので。
だれからも、相手にされていなかった。
「ぼくは、アンタに憧れていたんだ。生きてて楽しそうだし。」
泣きながら男は続けた。
「・・いや。楽しくなんかなかったさ。」
「結局、ぼくもあなたも一緒の人間なんですね。」
男が殴った頬が腫れた。
「そんなことより、ピストルはどこで。」
「ぼく、今、警察やっているんです。ピストルの中の弾は、全部おもちゃです。」
「え。」
「アンタのことが、ただ、知りたかったんだ。」
あのなんの取り柄もないチューブが、警察に。
なんてことだ。
なんの取り柄もないのは、俺のほうじゃないか。
ハサミを持ってロープを切る。
そのあと、チューブが、男の目を見て喋る。
「生きるの諦めないでください。」

解放された男は街をブラブラ歩いた。
・・・なんの取り柄もないなんて、酷いこと言ったな。

チューブの持っている恨みを、男は思い出した。
「タバコ、ぼくも吸いたいなあ。」
「ああ、お前みたいな弱っちい根性なしに、あげるタバコはない!」
「弱くなんかない。」
「取り柄あんのか。ないだろ。チューブ。お前は、空気が通ってるだけのチューブに似てる。」
その後、チューブは、顔を真っ青にして、走ったんだ。
彼をチューブと命名したのは、他の誰でもなく俺だった。

警察をやっているってことは、喧嘩が強い。
根性もある。
ああ、俺なんかより、沢山、取り柄があるじゃないか。
チューブという名前は、俺のほうが相応しい。
いや、考えてみろ。チューブがあるから、自転車や車は、走れる。
チューブ。かっこいい名前じゃないか。
フリー求人雑誌が、店頭に置いていた。
「あ。」
中をパラパラめくる。
とりあえず、職探しから、はじめようか。

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