「ハーモニカと逆上がり」
2009年11月26日
小学校の休み時間。
みんなサッカー。女子はおしゃべり。
ぼくは男の子。
サッカーに混じって遊んだけど、あんまり、サッカー上手くないからパスももらえない。
サッカーの上手い上杉くんはいつも、かっこ良くゴールを決めた。
目線をそらすと、鉄棒の近くで、同級生の山吹くんが、ハーモニカを吹いていた。
「おい、山吹のほうなんて見るなよ。」
みんなが運動している足音で、山吹くんのハーモニカは聞こえなかった。
ぼくは、ぼーっと見ていたのがたたって走っていくみんなとぶつかって転んで足を擦りむいた。

保健室に行った。
「サッカーで転んだの。いつもみんなで楽しいわね。」
消毒をされるとツンと匂いと痛みを感じた。
サッカーは、沢山の人数でやるけれど、その中で、サッカーを本気で楽しんでいるのは上杉くんだけだった。
サッカーの少年チームにも入っている。
だからぼくらみんな出番がなくただ走るだけ・・・走るだけ。
サッカーに参加しようとしない山吹くんを皆嫌った。
ぼくは、山吹くんと、話がしたかった。

体育の時間。
ぼくは逆上がりができなかった。
勢いつけても鉄の棒に思いっきりひじがあたりねんざした。
「おまえ、怪我してばっかだなー。」
「まあ、でも、山吹みろよ。あいつ。また、体育の時間休んでるぜ。」
「センセーなんで、山吹くん。いつも体育休むんですか?」
「せけーよあいつだけ。」
「せけーせけー。」
クラス中で、巨大なブーイング。
山吹くんは体操座りをしたまま動かなかった。

放課後、ぼくは、逆上がりの練習をしようと、鉄棒の前にいく。
山吹くんがいた。
ぼくは、勇気を出して話しかけてみた。
「山吹くん。いつも鉄棒のまえにいるけど。どうしてだい?」
山吹くんは答えた。
「ここが一番、空が綺麗に見えるんだ。」
山吹くんの声をはじめて聞いた。
「ちょっと練習するから。砂埃たつけど我慢してね。」
「うん。気にしないで。」
勢いつけてもだめ、遠慮してもだめ。
鉄の棒の固さが怖い。怖いんだ。
心臓の音がドキドキする。
色んなことが頭を巡る。
サッカーでどうして、上杉くんだけちやほやされるんだ。
ぼくは、スタミナ切れて転ぶし。
山吹くん。きみは、なんで、サッカーも体育の時間もでないんだ。
これじゃあ気味悪がられてもしかたがないよ。
ドン。
鉄棒に頭が勢い良く当たった。
ドシっとぼくは、地面に落ちた。
ハーモニカの音が聞こえる。
銀色の鉄の、ああいい音色。
頭を打った衝撃で、目から涙が落ちた。
しばらくしてぼくは立ち上がった。
そして思い切って山吹くんに話しかけた。
「なんで、山吹くんは、逆上がりに挑戦しようとしないんだい?」
山吹くんはすこし笑ってこう言った。
「興味がないんだ。」
そして立ち上がって、鉄棒に手をかけてすらっとした動きで足を泳がした。
ぐるんと逆上がりをした。
ぼくは愕然とした。
「逆上がりできるのになんで。しかも今の凄いよ。」
「うん。でもぼくは、運動するより、ただ空を眺めていたいんだ。」
もったいないなあ。ぼくは思った。
山吹くんがハーモニカを再び吹き始めた。
ぼくはそっと力を抜いた。
そして、三回くらい挑戦して、ようやく逆上がりができるようになった。
山吹くんはなんの反応もしてくれなかったけれど。
ぼくは、満足だった。
次の体育の時間がとっても楽しみになった。

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